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2009年7月10日 (金)

魔酒アブサン

 渋谷の鰻屋の大和田で会食。場所は円山町でちょっと怪しい雰囲気の入り口にあるが、店は老舗の一軒家の佇まい。入り口を開けると石の叩きがあって、玄関には水をうってある。昭和そのものの古い民家風の鰻屋。注文してから捌くので、ビールを頼んでその間につまみを食す。海老を麹で漬けた塩辛のようなもので、これが酒に合う。白焼きを頼んで、白焼きが来る頃にはビールを飲み干しているので、今度は酒を頼んで、冷酒で白焼きを食べる。わさび醤油で食べる鰻も美味い。日本酒にたまらなく合う。その酒が尽きて、白焼きがなくなる頃にうな重が来る。重箱に1本半ほどの蒲焼が入っているのだが、柔らかくて甘くて絶品だった。こういう食事をお座敷の個室で卓を囲んで食べていると小津の時代の中村伸郎とか北竜次のようなえらいさんになった気分になる。渋谷の喧騒が嘘のような静かな佇まいが素晴らしい。この場所代を考えても充分安いと感じる。

 食事の後は、近くの30CLUBと言うバーに行き、アブサンを飲む。フランスでは体の害になるからと、数十年にわたって禁止されていた魔酒だ。山田風太郎の「明治波濤歌」の中の一編「巴里に雪が降るごとく」の中で、ポール・ヴェルレエヌが身を持ち崩して常飲している「魔酒アブサン」と表現されている酒だ。リキュールで、僕が大好きなペルノに味が似ているなと思ったら、バーテンが「ペルノ」は「アブサン」が発売禁止になった後でその味を恋する巴里っ子のために、「アブサン」の中でも身体に害毒があるとされていた「ニガヨモギ」の成分を取り去って作られたものであると言う。ちなみにペルノは40度で、「アブサン」は55度。復刻された「アブサン」も、この「ニガヨモギ」の成分は入っていないようで、それゆえ発売が可能になったとのこと。僕らはこの「アブサン」と「ペルノ」を飲み比べてみたが、味は非常に似ているが、「アブサン」の方が口当たりがよく、アルコール度数が高い。つまり調子に乗って呑みすぎるとたちまち「魔酒アブサン」に変貌するかのごとくに、悪酔いしてしまうのだ。それでも、「アブサン」は美味かった。渋谷でもこんなに落ち着いて呑んだり食べたりするところがあるのは嬉しい。

 この「30CLUB」20年前に長崎俊一監督と「誘惑者」と言う映画が東京国際映画祭でさくらシルバー賞を受賞した日に、2人でバーボンを呑んだ思い出の場所でもある。「誘惑者」は長崎監督にとっても代表的な作品であったが、僕にとってもこれより数年前に遡って長崎組の助監督をやるきっかけになった映画でもあり、それからの4年間長崎監督に着いて「誘惑者」の実現に命をかけていた作品でもあったのでその受賞は何よりも嬉しかった。

 そして、「誘惑者」で知り合った俳優こそ、一生この人と仕事をして行こうと約束をした草刈正雄さんだった。

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