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2010年1月28日 (木)

嘘のような本当の話

いまから10数年前、僕がチーフ助監督だった頃の話だ。

ある映画の制作会社の制作進行尾上(仮名)には、可愛いタイ人の恋人がいた。名前はラムちゃん(仮名)。ラムちゃんは尾上のことが大好きだった。撮影の仕事で尾上の帰宅が遅くなると、ラムちゃんは自分の二の腕をカッターナイフで切り刻んで彼の帰りを待った。それはタイに伝わる呪いの一種で、そうして腕を切ると恋人が帰ってくると言い伝えがあるらしい。だが、尾上はそれを寂しさゆえのリストカットだと勘違いし、ラムちゃんを連れて現場へ来るようになった。僕がラムちゃんに会ったのはそんな時だった。

ある日、僕は冗談がてら「どうせ現場へ来るならタイ料理でも作ってくれよ」言うと、純粋なラムちゃんは上野まで買出しに行き、制作部の炊き出しの道具で、立派なタイ料理を作ってくれたが、それは水生昆虫タガメの塩漬けやナマズのスープなどとても日本人には耐えられない代物だった。ボクは美味しかったけどね。

そんなある日こと、ラムちゃんは「みんなのお父さんやお母さんは何人いるの?」とおかしなことを聞いてきたが、どうやら、ラムちゃんのお父さんには3人以上の奥さんがいて、十数人の腹違いの兄弟がいるとのこと。僕が「ラムちゃんのお父さんはどんな仕事をやっているの?」と聞いたところ、「○ロイン作っているよ!」と明るく言い出した。「ラムちゃんも○ロイン大好き、白いのと黒いのあって、白い方が好き」とか言い出して、僕だけじゃなく、みんなビビってしまった。尾上はその日以来、ラムちゃんを連れてくることはなかった。

それから数年後、げっそりとやつれた尾上と遭遇した。もう制作現場は離れているらしかった。そこで尾上はこの数年間に起こった数奇な運命を語ってくれた。

あれから尾上は、ラムちゃんとどうしても結婚がしたくなり、タイのラムちゃんの実家へ挨拶に行くことになったと言う。

そして、それなりの金を親から借りて、タイへと向かった。尾上の実家はある大手銀行の頭取で金だけはあったらしい。

ラムちゃんに連れて行かれたのはチェンマイの豪邸だった。なんと、ラムちゃんの父親はタイの麻薬王だったのだ。タイの麻薬王の父親は、ラムちゃんが日本留学の末に日本人の彼氏を連れて帰ってきたことに激怒した。そして、尾上の父親が日本の大手銀行の頭取であることを知ると、なんと尾上をその豪邸に軟禁してしまったのだ。

それから数週間、尾上はその豪邸でラムちゃんと会うことも叶わず、パスポートも取り上げられ軟禁されていた。ラムちゃんはこの間、タイ警察に勤める長兄に相談したりしていたようだが、この腹違いの長男も警察の情報を父親に流すだけの為に警察にいたような男だったのでまったく役に立たず、遂に痺れを切らしたラムちゃんは、尾上を脱走させ自分も日本へ帰ろうとしたが、彼女自身のビザの期限が切れてどうすることも出来なかった。

そんな時、救世主のように現れたのがラムちゃんの双子のお姉さんだ。ラムちゃんのお姉さんは、自分のパスポートとビザを使い、尾上を連れて日本へ行くように言った。父親は、このままでは尾上の実家に連絡させ身代金でもとりそうな気配だったので、ラムちゃんも家をでることを決意した。

双子の二人は衣服を替え、完全に入れ替わり、まんまと家族の目も欺ことに成功。そして尾上と共にその豪邸からの脱出に成功し、ラムちゃんは双子の姉に成り済まして日本へ再び渡り、尾上と結婚したと言う。

その後2人がどうなったのか?それはボクもわからない。嘘のような本当の話だ。

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