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2010年10月10日 - 2010年10月16日

2010年10月16日 (土)

BIG1物語 王貞治

 読売巨人が王貞治選手のハンク・アーロンの記録を超える756号ホームランという世界記録達成の折に作られた記念映画である。しかし、なぜか監督は吉田喜重。僕は高校生の時に東映で「新巨人の星」と二本立て封切りで見ていたはずだが残念ながらその記憶がなかった。その後読売との権利問題とか選手会の問題があったのか定かではないが、吉田喜重特集が組まれても外されたり、或いは特集にラインアップされていても急遽上映中止になったりと、もちろんビデオソフト化もされておらず、幻の映画となっていた。それが今回京橋のフィルムセンターで上映されるというので駆けつけた。で、映画だが。

 これが読売が門外不出にしたくなるもの頷けるような畸形な記録ドキュメンタリーになっていた。

 吉田喜重は、王選手と共に756号を打ったその日にどのようにして家から後楽園球場まで行ったのか仔細に検証していく。ひょっとしたらこの時に王選手の自宅が映り、その家へと辿る近所の道も出てくるから個人情報保護の点で封印されていたのかもしれない。と憶測するほどに吉田喜重自ら車に乗り込んで球場までの道を検証していく。朝王監督が遭遇した近所の工場の人々。一見野球とは全く関係の無いこういう人々に吉田喜重は徹底的に取材をかける。そこで最終的に吉田喜重が導き出した答えは、「あれは誰も観ていなかった幻のホームランではないか?」というちょっと例えば巨人ファンなどには「ぽかん」としてしまう答え。これを、王監督の両親、打たれたヤクルトの鈴木投手、そういった人達へのインタビューから創り上げていく。あの日王選手はなぜその道を通らなければならなかったのか?通らない可能性もあったのではないか?その時、なぜ鈴木投手はあのボールを選び投げてしまったのか?投げない可能性もあったのではないか?ラストは無心で鏡の前で素振りをする王選手をカメラは捉える。そしていままで何千回何万回と降られてきた王選手のバット。そのバットにあのボールはたまたま当たっただけではないか?そうあれは誰も観なかったかもしれない偶然の産物なのだ。と。

 まあ巨人の宣伝プロパガンダ映画としては見事に外している確信犯の映画なのですが、映画というものが黒沢清風に言えば『世界を切り取るものである』とするなら、たった1人の監督の世界観が、あの当時あれだけ日本を沸かせた王監督の756号をかくも虚しいものにまで仕立てあげられるのかということを実践してみせたという意味で非常に興味深く面白い映画になっていた。この悪意に当時の担当者は気がついたかどうかはわかりませんが・・・。

 吉田喜重は「戒厳令」からしばらく映画から遠ざかっており、この「BIG1物語 王貞治」の次に撮ったのが85年の「人間の約束」。いったい誰がこの企画を吉田喜重監督に発注したのかそれこそ大きな謎だ。多分「美の美」というテレビドキュメンタリーを何本も撮っていたのでその繋がりかなと思うが、それにしても非常に変な映画だった。

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