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2011年1月14日 (金)

犬とあなたの物語

 久々に試写室で声を上げて笑ってしまった。僕は昔から映画館で笑えるシーンがあると本気で声を上げて笑ってしまう。「男はつらいよ」で寅次郎が柴又に帰ってきて虎屋の人々やタコ社長とケンカするくだり、「トラック野郎シリーズ」で定番の由利徹や南利明、山城新伍といった人達がしもネタギャグを連発するくだり、そういうシーンで笑ったのと同じくらい、「犬とあなたの物語」の前半のショートフィルム部分は笑える。今回はCMの監督たちが腕を競い合うかのようにショートギャグを連発する前半部分と、長崎俊一監督による犬と人生について深く考えさせられる中編、そしてエンディングにやはりCM監督による犬への愛情を表現した短編がつく構成となっている。この前半の新劇系の俳優さんに大真面目にくだらない芝居をさせる部分がかなり笑えるのだ。

 そして散々笑ったところへ、長崎さんのちょっと深刻なヒューマンドラマが来る。このヒューマンドラマが長崎さんらしいストイックで抑制のきいた演出で実によく出来ている。僕は長崎監督とは10年くらい組んでいたので、わかるがこうしたプログラムピクチュア的な作品に対してとても真摯に取り組む監督なのだ。人間が真面目なのだ。多分僕の1億倍くらい真面目で努力家なのだ。「犬の名前」は、過度な感動、笑いなどは抑えるが静かに物語を語っていく。的確なカット割り、抑制のきいた芝居久々に上質なエンタティメントを観ている気分にさせてくれた。さんざん前半の短編部分で笑ったあとのなので、「若年性アルツハイマー」で静かに家庭が崩壊していくさまと、少年時代の犬との別れと今いる犬への愛情を重ねながら人生について深く考えさせてくれる。まあ、これは僕がもうすぐ50才でこうした内容に真剣に危機感を覚えたりするってのもあったかもしれないが、主人公達に付かず離れず愛情のある眼差しで描き出す長崎さんの演出に目からウロコが落ちた気分だった。

 これは余談だが、むかし、室井滋や諏訪太朗など仲間内でボーリングをやった時のことだった。長崎さんが決して運動神経がいい方ではなく、ましてや事故の後遺症でもあったので、ボーリングはビリ予想されていた。それがボーリング場について、順番待ちをしている間、僕らがゲームとかしている間に長崎さんはそこに貼ってあったボーリングの球の投げ方、足の運び方を科学的に解析してあるポスターを真剣に眺め、それを短時間で習得し結果的に優勝した。長崎さんとはそういう人なのだ。

 長崎俊一、矢崎仁司といった先輩格の監督たちがそれぞれ予算や規模は違うがプログラムピクチュア的な中で傑作を生み出したのは嬉しい。僕は商業映画は適当にやって、インディーズで自分の映画を撮るときに禊をするような監督は認めたくない。長崎さんが自主映画から商業映画に行く間に実に4年くらい撮れない時期があった。その間、決して遊んでいたわけではなく、僕は長崎さんのために何本も脚本やプロットを書いて企画してプロデューサー周りをした。成人映画やAV的の企画までやったが長崎監督は決して手を抜いたりはしなかった。どんな企画でも、常に全力投球。ちょっとでも気をぬこうとすると「お前本当に其れでいいのか」と射るような目で睨まれた。僕は数年前にテレビドラマを撮っているとき、同じシリーズを撮っているある先輩監督に「おまえこんなものやって何が面白いの?」と言われたことがある。その方は、海外の映画祭でも有名な方だ。しかし、どんな時でも自分の力で傑作を撮る努力をしないと腕が鈍ってしまうと思う。それは僕自身も大いに反省したことがある。だから長崎さんの「犬の名前」の真摯に映画に向かう姿勢にはやはり胸を締め付けられる思いがしたのだ。

 「犬とあなたの物語」1月22日から全国公開される。シネコンでもやっている映画なので、何を観ようか迷った時は是非オススメします。

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