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2011年1月12日 (水)

不倫純愛

 某Pからのお薦めもあり、というかその人から聞かなければこの映画の存在すら知らなかったわけですが、イマジカの第2試写室に「不倫純愛」を見に行ってきました。マスコミ試写は2回のみで、公式HPもないので、先に告知しておきますが、この井土紀州脚本で矢崎仁司監督による「不倫純愛」は1月22日より新宿のシネマート新宿でレイトショー公開。雑誌「FRYDAY」に記事が出ていましたが、主演の嘉門洋子さんが初脱ぎとなることで話題になっている、新堂冬樹原作のエロティックサスペンスです。

 矢崎さんが低予算の請負仕事をやるってのがまず驚きました。矢崎さんは日芸時代に僕の師である長崎俊一監督と知り合い、「風たちの午後」という16ミリ映画で80年代初頭に話題となった人です。僕はその頃札幌で自主上映をやっていて、「風たちの午後」も上映し矢崎さんともそこで知り合いました。この矢崎さん、普段は消え入るような声でしゃべって静かなのですが酔うと雄弁となり物凄いオルガナイザーになるんですね。日本中を「風たちの午後」を持って行脚して回り、各地方から矢崎さんの言葉にほだされて東京へ出てきた自主映画青年たちは何人もいた。そして、地方から出てきた自主映画青年たちは高円寺にある矢崎さんが住んでいた「寿荘」というアパートに住み始めた。僕もその一人ですね。僕は自主映画をやるためではなく長谷川和彦を頼って助監督をやるために「寿荘」に住みはじめ、矢崎さんの三畳間で暮らしました。僕が出てきた当時は矢崎さんを敬う自主映画青年や役者の卵、ミュージシャン、なんかがゴロゴロ家賃もまともに払わず住んでいましたが、矢崎さんはその後夫人となった女性の部屋に行っていてもう「寿荘」にはいませんでした。この三畳間に畳が落ちそうなくらいに矢崎さんが残してった雑誌「シナリオ」や映画雑誌があって、古い映画の脚本をやたらにそこで読んで勉強になったのが今も役に立っていると思います。

 その後僕は矢崎さんが「三月のライオン」という映画を自主制作で撮り始めたときにチーフ助監督として参加しました。しかし、10日間撮影して1カットもオーケーが出なかったんですよね。当時僕は助監督として生活していたので、「三月のライオン」の為に二ヶ月間は空けられるけど、黒沢清監督に誘われて三ヶ月目からは「スウイートホーム」の準備に入るので困ってしまったのです。このままでは撮影はいつ終わるかわからない。そうこうしているうちに主役の交代劇なども含めて、撮影は中断となり僕は現場を離れてしまったわけです。「スイートホーム」のロケが終わるとすぐに長崎俊一監督の「誘惑者」の準備入るので、再開する「三月のライオン」はキャスティングと演技事務、それにスケジュールだけ組んで新しい若い助監督に渡した記憶があります。

 まあそういう経験もあったので、1日1カットも回せなかった矢崎さんが低予算の請負仕事を撮ると聞いたので、正直不安もありつつスクリーンに向かったのですが、これが堂々としたフィルム・ノワールの傑作で、いつもの静謐な演出を活かしつつ、確りとしたプログラムピクチュアに仕上げていたので驚きました。撮影はデジタル一眼レフのカメラを使ったようですが「三月のライオン」でも組んだ石井勲カメラマンがかなりクオリティ高い画面作りをしていた。主役の嘉門洋子の脱ぎっぷりも堂々としていて、プロデューサーが望むエロティックな濡れ場もかなり濃厚に撮り上げていて低予算商業映画としてはかなり出来がいい。タイトルからすると、ロマンポルノ的なメロドラマのニュアンスがありますが、内容は50年代アメリカ映画に定番だった「悪女」に翻弄されるノワール映画、例えばビリー・ワイルダーの「深夜の告白」とかフリッツ・ラングの「飾り窓の女」ジャン・ルノワールの「浜辺の女」などのファムファタール映画というべきか。とにかく、普通におもしろい映画になっています。

 試写後、撮影の石井勲からいろいろ苦労談も聞いたけど、低予算でもここまで魅せてくれる矢崎さんの演出力の技を堪能しました。

 なかなかマスコミには乗らないし、このタイトルで敬遠する人もいるかもしれないですがエンタティメント映画として楽しめるので是非1月22日からのシネマート新宿へ観に行ってあげてください。ところで「シネマート新宿」って「新宿文化シネマ」のことだったんですね。川崎に越して新宿で映画を観なくなったので知らなかった。

 

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