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2011年5月24日 (火)

スリー☆ポイント 山本政志

ここには撮りたいものだけを撮る。という山本政志の潔さがある。とりあえず2010年の夏の時点で撮りたいものをすべて撮ったから見てくれ!というライブ感溢れるインディーズ映画だ。

京都編は、山本政志節炸裂。「聖テロリズム」や「闇のカーニバル」にも繋がる「画を作らない」潔さ。この手法がいまも決して古びないことをわからせてくれる。京都に在住の実在のHIPHOPミュージシャンたちを主人公に、閉塞感の中で強烈に生きる若者たちの暴力的で不器用な青春をまるでドキュメンタリーのように活写する。こういう最低な奴らを生々しく撮らせたら山本政志は本当にうまい。焦り焦りする現在の閉塞状況への怒りをこれだけリアルに痛快に捉えた映画も珍しい。

沖縄編は、映画学校のドキュメンタリー科の先生が観たら激怒しそうな無目的行き当たりばったりな内容でこれもある意味痛快。沖縄の基地問題で闘う旧友を訪ねていっても結局それは吹っ飛ばし、ディープな街のプロの極道の刺青屋を撮りまくる。ここに出てくる米兵や不良中学生たちがたまらなく魅力的。何かひとつのテーマを掘り下げてそこへカメラを向けていくのではなく、自分が撮りたい!と思った原初的な欲求をすべて映画にしている点が面白い。そしてそこに捉えられた人々は「誰これ!?」という実に魅力的でおかしな人物たちだ。その危険で怪しい人々に山本政志が特に何か特別な思いもなく、同化して撮っているのがいい。これもまたエンタティメントの一つだと思う。

最後のエピソード、東京編は、打って変わって、都会を舞台に狂った男女間のサイコな要素もあるラブストーリー。これを確りとしたカメラワークで撮り上げている。村上淳の演じる暴力性と弱さを持った男が魅力的。渡辺大和も「見えないほど遠くの空に」続いて好演。今度は沖縄編と違って確りとした構成と練られた脚本で魅せる。もともとこれ1本で企画していた物語と監督本人に聞いたが、確かにエロティックサイコペンスの要素も加わって楽しめるジャンル映画だった。

この行き当たりばったりの「沖縄編」から確りと撮られた「東京編」までの振れ幅が大きくて自由で爽快感すらある。

内向的な自主映画が多い中、50過ぎのインディーズの草分け監督がここまで激しい新しい映画を撮ってみせたことに驚く。商業映画でやれないことをやるなら、ここまで自由闊達に表現して欲しいと思う。どんな若者が撮るより若々しい映画だった。

「スリー☆ポイント」は現在渋谷ユーロスペースでレイトショー公開中

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